定価5,500円(B5判・320ぺ一ジ) |
国際植物栄養協会(IPNI) /国際肥料協会(IFA) 編 編集委員 Tom W. Bruulsema / Patrick Heffer/ Ross M. WeIch / Ismail Cakmak/Kevin Moran |
<日本版> 監修 渡辺和彦(農学博士・元東京農業大学客員教授) 翻訳 棟方直比古/長久保有之/大野佳織/ 齋藤俊雄/鈴井智子/石浦啓佑/前田美穂/ 土屋慶彦/大石秀和/上杉 登 |
監修者まえがき 元東京農業大学客員教授 渡 辺 和 彦 「少ない肥料投与で環境負荷を少なくし、かつ生産力を低下させずに持続的な農業生産をいかに実現できるか」。これが、21世紀の肥料・植物栄養学の大きな課題とされている。20世紀の農業が、化学肥料や農薬の使用により単位面積あたりの農作物収量を飛躍的に増加させ人口急増にみあう食料供給に貢献した反面、過剰施肥による農地の劣化や水質汚染などの環境問題を世界で広く引き起こし反省を強いられたからだ。 |
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適切な肥料(適肥)を適量、適期に適切な場所に施用する「4R施肥推進運動」を推進すべきことは言うまでもない。農地のどのような場所にどのような肥料をどのような形で施肥したら一番効果的に高品質で、安全安心な農作物をつくることができるか、という研究も欠かせない。しかし、肥料が持つ役割=作物を健全に育てて収量を確保し人間を健康に養うという肥料の基本的価値に変わりはないはずである。人間の健康維持のためには、十分なエネルギーを確保するだけでなく、様々なビタミンやミネラルを含めた栄養素を食品を通してまんべんなく摂取する必要がある。作物の健全さとは総合的な意味合いを持ち、そのために欠かせないのが肥料なのだ。「未だ世界人口の6分の1が慢性的な飢餓状態」にあり、「2050年には現在より70%増の農業生産量が必要」だと国際連合食料農業機関(FAO)が報告している。また、エネルギーやタンパク質欠乏の脅威が低下した地域でも微量要素欠乏による栄養失調が深刻化している。今後ますます肥料の価値が認められなければならないと痛切に感じながらも、肥料軽視の世の流れにもどかしさを覚えていたなかで出会ったのが本書であった。 本書は、科学的文献調査に基づき「肥料がいかに人間の健康に貢献できるか」を精査したものである。 第1部は、食料安全保障の観点からである。食料生産における肥料貢献は当然であるが、世界のおよそ20億人が微量要素欠乏症の危険にさらされている。貧しさから脱しきれない発展途上国の人々が大部分だが、その原因解析とともに農作物への微量元素強化対策を示している。 第2部は機能性食品についてである。人間の栄養素としての多量元素も含め、タンパク質、脂質、炭水化物、機能性成分への施肥効果についてとりまとめている。施肥は多くの場面でプラスに働いていることを再認識することだろう。 第3部は施肥によるリスク管理である。ヨーロッパで恐れられた麦角病の銅施肥による対策、有機農業と慣行農業の比較、ベラルーシの放射線対策事例を紹介している。 全てが科学的実験データに基づくため、本書の内容は生産から消費場面に渡る食品としての農産物を扱う全ての人々に役立つはずである。現在の日本においても、亜鉛欠乏の高齢者が大勢存在する(倉澤隆平医師、2005年)。日本の現在の食生活習慣と、農産物の亜鉛不足が原因と考えられる。また、微量元素の重要性を早くから看破していた農法を町ぐるみで実施した福島県西会津町では、平均寿命が延び、しかも医療費も低下した実例もある(2003年)。さらに日本では野菜の硝酸塩を有害視する人がまだまだ多いが、本書には硝酸塩に関する考え方は1994年に大きく変わったこと、現在では免疫系への効果も判明していることが明確に記述されている。 肥料は現在のところ日本国内では邪険な扱いをされているが、肥料こそ作物生産を通して人間の健康に貢献できること、すなわち「肥料・ミネラルを適切に投与することは、命の源を人間に届けること」であることを本書が世界的視点から提示してくれている。今まさに「肥料の夜明け」を迎えている、と言ってよいだろう。 |
「これからはグローバルな世界で生きていくことが求められる日本の農業、この著作が次世代の農業者や肥料関係者に、少しでもお役に立つことができればと期待しています。」 (全国肥料商連合会会長 上杉 登) |
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<要約> |
トム・W・ブルーセマ、パトリック・ヘファ、ロス・M・ウェルチ、 イスマイル・カクマック、ケビン・モラン |
<食物と栄養の安全> |
第1章 食料安全保障を支える作物栄養学の役割 |
テリー・L・ロバーツ、アーマンド・S・タシストゥロ |
第2章 微量栄養素の欠乏による栄養失調症―原因、有病率、結果、介入 |
ハワース・ブィーズ、エリック・ボイ・ガジェゴ、J.V.ミーナクシ |
第3章 微量元素による作物の栄養価改善に関する展望 |
ロス・M・ウェルチ、ロビン・G・グラハム |
第4章 微量要素による食用作物の農学的栄養強化 |
グラハム・リヨン、イスマイル・カクマック |
<機能的食品> |
第5章 食物中のカルシウム、マグネシウム、カリウム |
フォレスト・ニ一ルセン |
第6章 食用作物のタンパク質、炭水化物及び脂質の構成 |
シンシア・グラント、トム・W・プルーセマ |
第7章 施肥と健康・機能性食品における健康補助成分含量 |
ムスタファ・オーク、ゴピナダーン・パリヤース |
第8章 果物と野菜の機能性と施肥 |
ジョン・ジフォン、ジーン・レスター、マイク・スチュアート、 ケビン・クロスビー、ダニエル・レスコバ、ビーマナグーダ・S・パチル |
<リスク減少> |
第9章 植物病害に関連する植物栄養と人間への健康リスク |
ドン・M・フーバー |
第10章 肥料利用に関する有機農法と慣行農法の人間の健康面からの比較 |
ホルガー・キルシュマン、ラース・ベルグストルム |
第11章 放射性核種 137Cs・90Srによる土壌汚染改善策としての施肥 |
イオシフ・ボジェビッチ、ナタリア・ミカイロスカヤ、ヴェラニカ・ミクーリッヒ |