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 平成26年1月21日、全国複合肥料工業会と(社)全国肥料商連合会の合同賀詞交換会が東京ガーデンパレスで開催されましたが、それに先立ち開催された、農水省大臣官房審議官岡田憲和様の特別講演『農地中間管理事業の推進と今後の農業経営対策について』は、誠に時機を得たテーマで、丁寧でわかりやすい内容だったそうです。
 「商経アドバイス」に講演要旨が連載されましたが、それを参考にしながら以下に内容をまとめてみました。

 ※ 講演資料(クリックするとPDFファイルが開きます)

                 <岡田憲和氏の経歴
生年月 昭和34年生 兵庫県出身
昭和57年4月1日  農林水産省入省
平成12年6月15日 食品流通局外食産業室長
平成13年1月    総合食料局食品産業振興課外食産業室長
平成13年7月6日  林野庁林政部参事官
平成15年1月10日 林野庁林政部経営課長
平成16年4月1日  林野庁林政部企画課長
平成19年1月5日  林野庁林政部林政課長
平成20年4月1日  大臣官房地方課長
平成22年4月1日  大臣官房協同組合検査部長

平成23年9月1日  大臣官房検査部長
平成24年1月1日  関東森林管理局長
平成25年7月2日  大臣官房審議官(兼経営局)

   ◇◇◇ 農地中間管理事業の推進と今後の農業経営対策 ◇◇◇

農地中間管理機構の発想~その1

 日本の農業就業人口のうち、主に農業に従事している基幹的農業従事者は65歳以上が59%、対して50歳未満は11%と非常にアンバランスな様相を呈している。今後、日本の農を支える農業者を確保する上で切実な問題となっている。仮に高齢農業者がリタイヤした場合、農地が耕作放棄地につながりかねない危機感がある。
 耕作放棄地の内訳として、土地持ち農家の所有農地の場合、後継者が親元を離れた都会暮らしで、親が死亡しても実家に帰って農業に従事せず、農地が放置されて荒れ野になっているケースも増えてきている。農地相続そのものは農地法の権利移動許可の対象外で行われるので、登録者が自動的に農地を所有することになっているが、農村部に在庄していない場合は、必然的に耕作放棄地の可能性が高くなる。
 農地の流動化を進めるに当たっては、まず担い手を確保しながら担い手に農地の集約化を行って、担い手にとって使いやすい農地の形態に変え、「この農地で農業を行って規模拡大に取り組んでみよう」という判断をしてもらえるような環境をしっかり整えることが重要になってくる。
 このことが農地中間管理機構の創設の発想の1つにつながってくる。農地と農業経営者の動向の組み合わせが農業構造になるが、その構造自体を改革していく状況にある。これまで構造改革に手を打たなかったわけではない。平成21年には「平成の農地改革」と称する改革も行った。農地の所有と利用を分離して、農地の有効利用を軸とした制度を再構築していくものだ。

農地中間管理機構の発想~その2

 農地中間管理機構の構築の2つ目の発想は、「農地集約の円滑化と遊休農地解消策の強化」で、農地の出し手の代わりに受け手を探し、農地を集約する組織を整備していくことだ。自ら農地の所有権を持ってさらに受け渡す方法は、資金も必要で所有するリスクもあるため困難な点がある。
 農地中間管理機構は、その代理を行うので、1つのバイパスをつくること。「農地所有者の代理として受け手を探して契約する仕組み」をつくろうというものだ。一般企業の農業参入については、リース方式を前面に自由化している。
 農地を所有する場合、法人(企業)は農業生産法人の要件を整える必要があるが、賃借権の場合は法人の参入要件を緩やかにしていく。リース契約の場合、所有とは異なり、農地の不適正な利用の際には契約を解除して原状に戻せる。所有方式で行う場合、農地所有の資金回収は100年間を要する状況だ。
 農地所有は経営面からすると非常に難しいが、リース方式なら意欲的な企業が参入して、農地も有効に利用されるのではないかと思う。21年にこの仕組みに変えてから3年6ヵ月間の実績として、1261法人が参入している。農地の所有方式とリース方式を比べると、リース方式で参入する方が合理的だ。
 このため、リース方式による法人の農業参入をしっかりと進めることが、農地の有効利用の面からは重要だと判断している。ただし、地元の農業者からすると企業が高い資金を投じてまで農地を所有し、「もし農地を使用しないことになった場合は産廃置場になるのではないか」などと危倶する声も聞いている。リース方式を採ることによって、地元農業者の意向に参入企業も沿った形態で農地利用が進むのではないかと思っている。

農地中間管理機構の発想~その3

 21年の農地流動化の促進策において、各県に農地流動集積円滑化団体が設立されている。代理者としての集積だが、全国平均で農協が半分主体となっている。そもそも農地集積が進みにくいのは中四国で、市町村が主体となっていることが多い状況が見て取れる。
 農地流動集積円滑化団体のほかに、農地保有合理化法人いわゆる県が設立する農業公社は、農家から農地所有権を買い入れて他者に売り渡すという所有権移転による流動化がメインの仕事だ。農地法による農業公社の購入資金制約や売却できない場合のリスクなどから、なかなか積極的にに農地を集めることができない。
 こうした問題があるため今回、農地中間管理機構を創設する。実質的には農地保有合理化法人を抜本的に組織替えして行う必要はあるだろうが、各県に1つは設ける。農地利用権を取得して受け手に転売していく仕組みをつくる発想につながっている。担い手農業者に集約する農地を全農地の8割に引き上げることを考えている。
 施策の展開方法で、農地中間管理機構の整備活用に関する細かい法整備を臨時国会で行った。予算措置も補正予算と当初予算で700億円を超す予算を確保している。「人・農地プラン(地域農業マスタープラン)」をしっかり作成して徹底的な現場の話し台いの仕組みを作ってきた。
 この3点が非常に重要事項と思っており、ようやく整いつつある。今後、農地中間管理機構が現場で機能することが非常に重要なことだ。現在、各県に担当官が出向いてしっかり説明し、活用してもらえるようにお願いしている状況だ。

農地中間管理機構の役割

 農地中間管理機構の役割は、地域内に分散して錯綜した農地を整理し、農地中間管理機構に預けてもらって、預かった農地を集約化する形で担い手農業者に貸付していく。貸し付ける担い手が出てこない場合、農地中間管理機構が農地としてしっかり管理していく。
 貸し付ける農地は、担い手農業者が使いやすい形にすることが非常に重要になる。簡易な基盤整備あるいは畦畔を取り外して30㌃は1㌶規模にすることなども機構側が行う。担い手農業者の視点に立って使いやすい農地の利用、農地づくりを進めていくことを目指す。
 農地中間管理機構は各県に1つ設ける。県知事が法人を農地中間管理機構として指定することになるが、現場の業務は市町村が非常に重要な主体になると思う。業務のほとんどは市町村に委託し、相談窓口の設置なども市町村に委託する。農地中間管理機構、市町村農業委員会、地域によってはJAがしっかり動いている所もあるので、そのような所に委託しながら関係者の総力で農地集積と耕作放棄地の解消につなげていく。

農地集約のイメージ

 農地集約のイメージは、担い手農業者の圃場周辺にある高齢農業者など担い手以外の農地をすべて農地中間管理機構に預けてもらって、その農地を担い手農業者に貸し付ける配分計画を作成して県知事の認可を得ると、その計画通り行われる仕組みだ。単に貸し付けるだけではなく集約化させることで農地需要を高めていく。
 現在、「人・農地プラン(地域農業マスタープラン)」を作成している中で、担い手農業者からは、「農地を集めると面積は大きくなるが、分散していて非常に使いづらい。作業効率が悪いので集約化したいが、自分一人で行うのは非常に労力を要する」という声があった。その点も踏まえて、公的機関に農地を全部預けてもらって、農地中間管理機構が再配分を行う仕組みとする発想があるわけだ。

農地中間管理機構に係る予算措置

 農地集積では制度とともに予算が非常に重要になる。まずは農地を出してもらわなければ事は始まらない。農地の出し手に対する支援(「機構集積協力金」)としては3つある。まず地域(集落など外縁が明確な同一市町村内の区域)でまとめて出してもらった割合に応じて、その地域に対する支援として「地域集積協力金」の形態で助成金を交付する。
 個々の出し手に対する支援では、経営転換やリタイヤする農業者、農地を相続したが就農しない人が機構に農地を預ける場合、「経営転換協力金」として助成金の交付措置を設けている。また、耕作農地を機構の農地集積に協力する形で預け、再配分の対象にすることを了承する農業者には「耕作者集積協力金」として助成金を交付する。
 農地を預かる機構には、出し手に支払う賃料が発生する。担い手農業者に農地を貸し付けた段階で相殺されるが、出してから預かって再配分で貸し付けるまでは賃料を払い続けることになり、その間に必要な経費について予算措置を講じている。預かった農地を耕作が可能な状態で管理するための予算措置も設けている。
 農地中間管理機構自体は県の公益法人となるので、機構が借り入れた農地にかかる費用(賃料、管理・保全経費)は、国ができるだけ国費を投入できる仕組みとする。農地集積・集約化の基礎業務に対する支援措置も設けている。
 農業委員会が管理する農地台帳を整備して電子システムですべて公表していく。その情報を関係者が見て農地の利用方法を議論できることから、電子化を進めていく予算措置も設けている。

人・農地プランの作成、見直し

 地元の話し合い活動には人・農地プランをしっかりと進めていくことが重要だ。農地中間管理機構の創設に当たっては、人・農地プラン作成の過程で、「このような組織があればいいな」ということがあった。農地流動化を進めるに当たっては、地元で積極的に話し合うことが農地中間管理機構を活用する上で非常に重要なことだ。引き続き市町村の集落・地域の段階で人・農地プランを作成あるいは見直しすることが非常に重要なことと思う。
 人・農地プランは、「今後の中心となる経営体(個人、法人、集落営農)はどこか」「地域の担い手は地元できちんと確保されているか」を議論し、互いに理解し合うことで認識を共有してもらうものだ。将来の地域の農地利用のあり方についても議論してもらう。その際、農地中間管理機構の活用方法も関係者が議論することで非常に進展するのではないかと思っている。
 近い将来の農地の出し手の状況についても、互いに客観的に認識し合うことが、人・農地プランを現実的なものにするためには非常に重要なことだ。こうしたことを地域で徹底的に話し合ってもらう。人・農地プランの中で中心的な経営体に位置づけられると、「青年就農給付金」やスーパーL資金の当初5年間無利子化などの支援措置の対象になる。
 人・農地プランは見直しが必要と思っている。農地と担い手農業者をめぐる状況が変わってくるので、地域の将来展望を描くように見直しするように呼びかけている。

新規就農者の確保

 農地の受け手となる新規就農者の確保はどのようになっているのか。土地利用型農業の農地は368万㌶あるが、一定の前提を置くと、主として農業の中心的な経営体となる農業者は30万人が必要。そのほかにも60万人が必要になるとすると、合計90万人が必要になってくる。現実には現在186万人だが、年齢層はアンバランスになっている。
 今後、この農地を支える農業者を確保するためには、毎年平均で約2万人の青年層が新規就農して、農業を継続してもらうことが重要となってくる。青年就農確保目標では現在、基幹的農業従事者の定着数は1万人なので、これを倍増することが必要になる。青年就農給付金や農業雇用事業を措置している。
 青年就農給付金の「準備型」では、県の農業大学校などの農業経営者育成期間、あるいは先進農業法人で研修を受ける場合、研修期間の生活費として年間150万円を最長2年間給付する。研修終了後は就農することが条件となる。就農開始後の支援は2つある。
 ひとつは法人に雇用される場合の「農の雇用事業」で、法人に就職した青年に対する研修経費として、法人に対して支給する仕組みだ。もうひとつは自ら経営を開始した場合の青年就農給付金「経営開始型」で、原則45歳未満の認定就農者に対して年間150万円を最長5年間支給する。
 「経営を開始しても所得が安定せず、農業経営をあきらめざるを得なかった」という声が非常に強く、これに応えられるように、所得について最低限の支給を行い、担い手を確保していくという趣旨だ。基幹施設の同意がある場合は無利子の資金も用意しており、認定農業者で人・農地プランに中心的な経営体と位置づけられると、融資資金が5年間無利子化になる措置も整えている。

担い手の公募、リスト化

 総合的な経営対策として、隙間なく対策を講じて担い手を確保する。農地中間管理機構を整備しても担い手が育たないと意味がない。農地中間管理機構自体も経営者を確保する施策になるわけだが、それ以外でも所得の確保や機械設備の導入などの面で担い手の確保につなげていくために、こうした措置を講じている。
 農地中間管理機構は、県の方で現在ある農業公社なりを抜本的に組織替えしてもらう。あるいは代替組織を設立することもあると思うが、その法人を県が農地中間管理機構としてふさわしいと指定すると、農地中間管理機構が地域ごとに担い手農業者を公募し、担い手のリストを作成していく。
 一方では、市町村や農業委員会に委託する形で、農地の出し手を掘り起こすことが必要になる。そのような農地の出物が出てくると、農地中間管理機構が整理した担い手リストに基づいて、機構が農地を配分していくという手順になる。機構が担い手リストに基づいて「農地利用の配分計画」を作成し、農地の具体的な利用権の設定につながっていく。
 これは今春以降の話になると思う。担い手を公募し、農地の出物を求める手続きが必要で、農地の配分計画を作成し、県知事の認可を得る手続きも必要になる。一定の時間は要することになるが、農地中間管理機構の業務がしっかりと進むようにしていきたい。

日本型直接支払制度(多面的機能支払い)

 日本型直接支払制度(多面的機能支払い)は、農地維持の支払いと資源向上支払いの2つに分かれる。農地維持は農業者等で構成される活動組織が行う水路の泥上げや農道の草刈りという基礎的な保全活動に対する支援措置だ。資源向上は施設の軽微な補修や農村環境の保全まで含めた支援措置となる。
 こうした仕組みは、農業の多面的機能の発揮につながるが、水路の泥上げや農道の草刈りも自分一人で行うことになると、担い手農業者にとっても非常に大きな仕事になる。
 この作業を地域全体で行うことによって、担い手農業者も「規模拡大大していこう」という意識につながると思う。そのような意味では、多面的機能支払いだが、担い手農業者の育成にもつながる仕組みではないかと思っている。

「ゲタ・ナラシ」の対象者を限定
(規模要件は課さない)

 新たな経営所得対策の概要として現在、畑作物のゲタ対策「畑作物の直接支払交付金」が実施されている。その過程を生かして麦、大豆、テンサイ、デンプン用バレイショなどの生産を維持発展させていく仕組みがある。対象農業者は現在、すべての販売農家、集落営農に予算措置で行われている。
 27年産からは経営安定対策の法律を改正して、現在は課している規模要件を課さない形態で認定農業者、集落営農、認定就農者が加入しやすい形態にして制度の見直しを図っていく。数量をしっかり作った場合、それに応じて支払う金額が増える仕組みは現行と同じだ。
 ゲタ対策と並んで「ナラシ」と呼称する「米・畑作物の収入減少影響緩和対策」というものがある。農産物の収入は毎年、上下の変動がある。収入が減った場合、経営が安定しないので減少した分の何割かを国費によって補填する仕組みだ。
 26年産は現行通りだが、27年産からはゲタ対策と同様に対象者を認定農業者、集落営農、認定就農者とし、規模要件は課さない形で継続して実施していく。

需要ニーズに応じたコメの生産

 水田フル活用とコメ政策の見直しでは、現在の主食米偏重から、「水田活用の直接支払交付金」制度によって飼料用米、麦、大豆などの戦略作物の耕作を進めて、水田フル活用を進めていく。飼料用米には非常に着目しているが、水田という貴重な装置をしっかりと維持しながら需要に応じた生産が行われて、農業経営者も経営戦略の下で農業経営の転換が行えるように、これから徐々に仕組みを整備していく。
 現在のコメ政策では、行政が生産目標数量を配分しているが、今後は需要に応じた生産を推進するために、水田活用の直接支払交付金の充実や中食・外食産業などの需要ニーズに応じたコメの生産を進める。さらに細かい需給環境の販売情報の提示など、需要に応じた生産が行える環境整備を進めていく。
 こうした中で、定着状況を見ながら5年後をメドに、行政によるコメの生産目標数量配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者、集荷業者・団体が中心となって、需要に応じたコメの生産が行える状況になるように、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組むことを掲げている。

コメの直接支払交付金は半減、そして廃止へ

 昨年はとくにコメの直接支払交付金(10㌃当たり1万5000円)の動向が着目を浴びた。「交付金をなくすのか」という話が先に出回った。直接支払交付金を受け取る農家にとっては手取り増となったことは間違いないが、高い関税に守られているコメに対して交付金を交付することについて、「他作物の生産者に納得してもらうにはおかしい」という厳しい指摘もあった。
 あるいは、「交付金を受け取ることで、むしろ安定的な販路を切り開いて経営を発展させる道のマイナス効果になっているのではないか」「農業者の広域化によって進みつつある農地の流動化のぺースを遅らせてしまうのではないか」という指摘もあった。
 今回、1万5000円の交付金は廃止することにしたが、この交付金を前提に各種投資を行っている農業者も少なくないことから、直ちにゼロではなく、26年産米から単価を7500円に削減した上で、29年産米までの4年間の経過措置としている。
 また交付金を削減する振替拡充として、農地を維持するための多面的機能支払いの創設に必要な予算、あるいは主体的な経営判断による水田フル活用を実現する水田の有効活用対策の充実、農地中間管理機構による農地集積の拡充策ということに踏み出している。

   以上
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